ネズミの「Q」の小さな冒険
作・辻村深月
2019.12.20
来年の干支「子」である、ネズミの「Q」。
Q-pot. MOOK Vol.6 で掲載された、
ネズミの「Q」の物語を特別に公開!!
ネズミの鳴き声は何?
チューチュー、とみんな応える。
だけど、ネズミの「Q」は違う。
キューキュー鳴くし、
尻尾の形も曲がりくねってちょろんとしてる。
ある日、自分の家に不思議なドアを見つけた。
ドキドキしながら、ちょろちょろ通ったドアの向こう、
空を見上げて息をのんだ。
大好物のチーズに、甘い匂いのホイップクリーム、
光を弾くジューシーゼリー。まるで夢の中のようだ。
「おや、迷子なの」と声が聞こえた。
「とてもかわいい尻尾だね」
眼鏡に髭の男の人。驚いて思わず「キュー」と声が出た。
「チュー」と鳴けないことが恥ずかしくて下を向くと、
「これは素敵な鳴き声だ!」と、さらに声が聞こえた。
「他のみんなと違うことを恥じてはいけない。
才能や個性というのは、“特別なことを恐れない勇気”だよ」
再び見上げた世界に見えるお菓子には、
どれ一つ同じものがなく、みんなキラキラ、輝いている。
「おおい、『Q』」
お母さんが呼ぶ声がする。
「さようなら、ミスター・マウス」とお別れをして家に戻ると、
心配そうな顔をしたお母さんに「ああ、よかった」と抱きしめられた。
「あなたが“キュー”って鳴くから、他の子と違って、すぐわかるわ」
ネズミの「Q」の小さな冒険。
新しい自分と素敵なお菓子の、出会いの物語。
辻村深月(つじむら・みづき)
2004年『冷たい校舎の時は止まる』で第31回メフィスト賞を受賞し、デビュー。2011年『ツナグ』で第32回吉川英治文学新人賞、2013年『鍵のない夢を見る』で第147回直木賞、2018年『かがみの孤城』で第15回本屋大賞受賞。著書に『島はぼくらと』『盲目的な愛と友情』『ハケンアニメ!』『朝が来る』など多数。『映画ドラえもん のび太の月面探査記』では脚本を務める。